おはようございます。今さらながら、クリストファー・ノーラン監督の作品を順番に観ています。どの作品も、まあとんでもないですね。同じ人間が撮っているのかと思うと、自信を喪失してしまいそうです。
これほどまでに作家性の強い作品が、大衆性も同時に兼ね備えているということに驚かされます。その点においては文学の世界とも似ているのかもしれません。仮にこの世界観が映像として目に見える形になっていなければ、この監督はただのめんどくさい変なおじさんとして扱われていたのでしょう。
そう考えると、当然と言えば当然ですが、表現ってものすごく大切ですね。どれだけ頭の中ですばらしいことを考えていたって、それを形にすることができなければ、もはや無いのと同じです。しかも、形にする過程で多くのものはこぼれ落ちてしまいます。
とんでもなくシビアな世界です。そんな世界でも、より忠実に表現しきることができる人たちをプロと呼ぶのでしょう。こういうおもしろい大人たちが表現を諦めないでいてくれるおかげで、若者たちは明日を生きていくことができるのです。どうも、インクです。
適当な嘘をついてその場を切り抜けて誰も傷つけない日曜日よりの使者
適当な嘘をついてその場を切り抜けて誰も傷つけない日曜日よりの使者
— インク@青年求職家 (@firesign_ink) 2020年9月27日
好きな小説をひとつ挙げろと言われたら、J.D. サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を選びます。何がきっかけだったのかはすっかり忘れてしまいましたが、高校生のころに本屋で手に取り、読み耽った記憶があります。はじめに読んだのは村上春樹さん訳ではなく、野崎孝さん訳の方でした。
I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes
僕は目と耳を閉じ口を噤んだ人間になろうと考えたんだ
『ライ麦畑でつかまえて』の中でも、かなり有名なことばだと言えるでしょう。『攻殻機動隊』からこの作品を知ったという方も多いのかもしれません。最近で言えば、新海誠監督の『天気の子』にも村上春樹さん訳の方が登場していましたね。
ちなみに野崎孝さん訳の方で、先ほどのことばは次のように翻訳されています。前後の流れも含めてもう少し長く引用してみましょう。
でも、仕事の種類なんか、なんでもよかったんだ。誰も僕を知らず、僕のほうでも誰も知らない所でありさえしたら。そこへ行ってどうするかというと、僕は啞でつんぼの人間のふりをしようと考えたんだ。そうすれば、誰とも無益でばからしい会話をしなくてすむからね。(P.308)
ここだけを読んでも、主人公であるホールデン節が炸裂しています。終始このホールデンがめちゃくちゃを言うお話なのですが、どうしても嫌いにはなれないんですよね。なんの根拠もないはずなのに、彼のことばはどこか的を射ており、妙な説得力があるのです。
上記の引用箇所だって同じです。随分と過激なことを言ってはいますが「自分さえ黙っていれば、誰も傷つけずに、かつ自分も傷つかずに済むのではないか」と、誰もがいちどは考えたことがあるのではないでしょうか。余計なことを言ってしまったり、聞いてしまったりして、落ち込んでしまうくらいなら、いっそのことすべてを遮断してしまいたくなるわけです。
実際に筆者も、随分と閉じた人間でした。ホールデンの気持ちも痛いほどにわかりました。誰も傷つけたくなかったし、自分も傷つきたくなかったのです。
「黙っていても仕方がない」と思うようになったのは、つい最近の話です。自分が黙っているせいで、見逃してしまっていることがたくさんあったり、他者に迷惑をかけてしまっていることがたくさんあったりするという事実にようやく気づくことができたのです。
もちろん社会生活を送る上で「言うべきではないことを言わない」という能力はものすごく大切です。思ったことをなんでも口にすればよいというわけではありあません。しかし、あまりにもそこに気を遣いすぎるせいで「言った方がいいことまで言わない」のは、もったいないなと思うのです。
何かを食べておいしいと思ったのなら「おいしい」と言った方がきっとよいですし、好きな人がいるのなら「好きだ」と言った方がきっとよいのです。何ならむしろ、それらを口にしないせいで、うまくいかなくなるということもあり得るのかもしれません。
結局ストッパーになっているのは、自分自身の気恥ずかしさだけです。その壁を乗り越えることさえできれば、巡り巡って自分自身の生きやすさにも繋がるような気がしています。その重い鎧はもう脱いで、もっと簡単に、そしてもっと素直に、声を出してもよいのかもしれません。 Sha, la, la ,la, sha, la, la, la, la
【今後の予定】
①10月7日(水)こきけんよう Vol.13
②10月17日(土)Coming soon ...
③10月26日(土)Coming soon ...
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①10月7日(水)こきけんよう Vol.13
毎週水曜日の定例会です。次回は21時スタートです。どうでもいい話をしています。週の真ん中、折り返し地点として聴きに来てはみませんか。声を出せる人はぜひとも一緒にお話ししましょう。水曜日に予定があるというだけで、目安になっていいものですよ。参加希望はツイッターのDMまで、よろしくお願いいたします。