ツイートの3行目

小学校の先生です。ツイートは2行まで。3行目からをここに書いていきます。

【水】物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない。

 

 おはようございます。戯曲を読んだことがありますか。いわゆる演劇の台本です。文学的文章の一種です。小説とはすこし違って、会話文を中心にして物語が進みます。だから、心情や、場所、時間なども、すべて会話文の中で伝えなければなりません。

 「ああ、気持ちのいい公園だなあ」というセリフを登場人物に言わせれば、そこが公園だということは伝わりますが、さすがにリアリティに欠けます。こんなひとりごとを言っている人なんて、現実にはいません。よくお笑い芸人のコントではこのような「説明ゼリフ」がつかわれますが、あれはリアリティを求めているわけではないからつかわれているだけです。

 リアリティを保ちながら、セリフだけでそこが公園だということを伝える。なかなか難しいですよ。ぜひ挑戦してみてください。どうも、インクです。

 

物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない。

 セリフだけでそこが公園だということを伝える。どうですか。すこしは考えてみましたか。これを教室でやると、とてもおもしろいです。「よくそんな設定思いついたな」というようなセリフを考える子どもが2、3人は出てきます。投げっぱなしなのもアレなので、筆者もひとつだけ考えてみました。

 

 A「あのすべり台なくなったんだ」 

 B「昔よく遊んだよね」

 

 どうですか。完全にここは公園だと思いませんか。ノスタルジックな気分にひたる大人がふたり、公園に佇む姿が浮かんできます。要はこういうことです。リアリティも十分に保つことができています。小道具や大掛かりなセットがなくとも、このセリフさえあれば、ここが公園だと伝えることができるのです。

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 すこしレベルを上げて「ふだんはそこにいるはずのない人物を登場させる」という設定でセリフを考えてみるのもとてもおもしろいです。たとえば「教室に医者を登場させる」とか。「電車にキリンを登場させる」とか。場所と人物の関係性がかけ離れればかけ離れるほど、そこには「非日常的なできごと」が必要になります。

 教室に医者を登場させようと思えば、クラスの誰かが大怪我をするような「できごと」を描かなければならないかもしれません。はたまた、先生が急に倒れるような「できごと」を描くことになるかもしれません。いや、授業参観の日に「父親」として登場させれば、自然と医者を教室に入れることができるかもしれませんね。

 しかし、これが「電車にキリン」ともなれば、さすがに自然に登場させるのは厳しくなってきます。ファンタジーとして描いたり、夢の中の設定として描いたり。どうしても追加の設定が必要になってきます。

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 これが物語をつくるということです。実際にすこし考えてみた方はわかったと思いますが、めちゃくちゃ難しいです。その「できごと」も、非日常的でありながら、筋はしっかりと通ってなければなりませんからね。そう考えると、『白いぼうし』で有名な、あまんきみこの「車のいろは空のいろ」シリーズはかなり秀逸だということがわかります。

 主人公の松井さんは「タクシーの運転手」です。タクシーはいろいろな人が乗ってくるものなので、ある程度どんな人物が登場しても違和感がありません。それこそタクシーに医者が乗ってきたって、別になにも変ではないのです。たとえそれが、「学校の先生」だって「しんし」だって「山ねこ」だって。どんな人物でも「お客さん」として登場させることができてしまいます。

 しかも、タクシーってね。動くんですよ。「何を当たり前なことを言っているんだ」と思っているかもしれませんが、動くということは要するに、場面転換にも違和感が発生しないということです。余計な説明をする必要がないのです。だって、動くことが当たり前なんだもの。

  人物も違和感なく登場させられる。場面転換にも無駄な説明がいらない。どうですか。すこしずつ「タクシーの運転手」である松井さんのすごさがわかってきましたか。

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あまんきみこ(2000)『車のいろは空のいろ 春のお客さん』ポプラ社

 ちなみに、この「車のいろは空のいろ」シリーズのはじめの作品は『くましんし』というお話で、あまんきみこの処女作でもあります。もともとは、シリーズ化するつもりなんてなかったそうです。あまんが師と仰ぐ与田準一から「松井さんは、その後元気ですか? そろそろエンジンをかけはじめてもいいころではないですか。こんどは、どんなお客がのりますか」ということばをかけられて、次作の『小さなお客さん』が生まれました。

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日本児童文学誌(1997)「シリーズ・作家が語る 2月号」

 タクシーという設定の秀逸な点は他にもたくさんあります。「内」と「外」で空間が分断されていることもそのひとつです。別の空間がふたつあることで、それぞれにちがった変化を起こすことができます。内にだけ変化を起こすこともできますし、外にだけ変化を起こすこともできます。しかもドアや窓を開ければ、そのふたつの空間をつなげてひとつにすることもできます。バリエーションがとんでもなく豊富なのです。

www.countryteacher.tokyo

 

 なんだか、今日は意図せずしてあまんきみこの回になってしまいましたね。システムをつくれば、あとは勝手に人物が動き出す。それを切り取った物語。なんだか教室みたいですね。

 さあ、そろそろ目的地に到着します。お代は結構です。どうかお気をつけて。いってらっしゃい。