ツイートの3行目

小学校の先生です。ツイートは2行まで。3行目からをここに書いていきます。

【水】読解力が低下するのは文章よりもおもしろいコンテンツが他にたくさんあるから

 

 おはようございます。うちの自治体では、授業で個人持ちの電子機器を利用することが禁止されています。もちろん、理由は個人情報の漏洩を防ぐためです。iPadがつかえたらもっとできることがたくさんあるのになと思いつつ、ルールだから仕方のないところでもあります。

 そんな中、グレーゾーンなのがApple Watchです。タイマーやボイスメモなど、授業でつかうと便利な機能はたくさんあると思うのですが、一応「個人持ちの電子機器」という仲間には分類されるでしょう。先輩の先生につけている方がいるので問題ないのかなとも思いますが、自分がつけていくことでそれを指摘され、先輩の先生までつけてこられなくなってしまうのは嫌だなとも思います。

 人に迷惑をかけるリスクをとってまでApple Watchをつけて出勤したいかというと、そういうわけでもないので、結局はチプカシを左腕に巻いて毎日出勤しています。チプカシだって頑丈でかっこいいんだぜ。どうも、インクです。

 

読解力が低下するのは文章よりもおもしろいコンテンツが他にたくさんあるから

  昨日、OECDから2018年に実施された国際学習到達度調査こと「PISA調査」の結果が公表され、話題になっていました。基本的に時事ネタは、賞味期限が短いのであまり扱いたくはないのですが、仮にも「小学校の先生」を名乗っていますので、この調査結果に関しては少しだけ私見を述べたいと思います。

 「そもそもPISA調査ってなんじゃい」という方もいらっしゃると思いますので、文科省のホームページのスクリーンショットをそのまま貼っておきますね。また、下のリンクからは問題例も見れますので、興味のある方はぜひご覧ください。逆に、興味のない方は絶対に見ないでください。絶対にですよ。

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www.nier.go.jp

 

1.調査結果 

  問題例を見ていただいた方ならお分かりいただけたかと思いますが、2018年に行われた「PISA調査」では、学習者の「リテラシー能力」を試す問題が多く出題されました。ふたつの情報を比べて共通点をみつけたり、原因と結果の関係性として正しいものを選んだり、根拠を資料から引用して記述したり、という問題です。

① 求められた情報を探す

② 信憑性を判断する

③ 活用する

  主な流れとしては上記の通りです。誰もが情報を発信できる時代になったからこそ、溢れる情報を適切に処理していく能力が必要だということでしょう。なんなら情報量が少ない世界で育ってきた大人の方が、変化に対応していくために身につけなければならない力のような気もしますけどね。

 まあそれはさておき、このような調査の結果が、昨日公表されたわけです。ニュースの見出しはもっぱら以下のようなものばかりでした。

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 読解力の低下。この話でもちきりでした。読解力に関しては、前々回の調査(2012年)が過去最高の4位、前回の調査(2015年)が8位、そして今回の調査(2018年)ではガクっと下がって15位というわけです。順位の急落に「おいおい、日本人の読解力やばいんじゃねえの」と焦っているわけです。

   ちなみに文科省の担当者は「今回のPISA調査で読解力がなぜ低下しているのか要因を特定するのは難しい」というコメントを残したそうです。まさにこれですね。さすが文科省の人間です。こういうところは心得ているようですね。迂闊なことを言えないのは分りますが「よく分かんない」と言われてもなあ...。

 

2.文章よりもおもしろいコンテンツ

 読解力が低下した原因の分析としては「パソコンで解答するというテストの形式に慣れていなかったから」だとか「読書習慣がついていなかったから」だとか、いろいろと言われているようですが、単純に「文章よりもおもしろいコンテンツが身の周りにたくさんあるから」だと思っています。

 タブレットを開けば、YouTubeでいつでも動画を観ることができます。TVerで見逃したテレビ番組を観ることもできますし、Amazon PrimeNETFLIXで過去の映画やアニメをいくらでも観ることができます。Kindleをつかえばわざわざ本屋に行かなくてもマンガを読むことができまし、Nintendo SwitchPLAYSTATIONのゲームは信じられないほどのクオリティに進化し続けています。

 そんな数多くの新しいコンテンツと比べて、「文章」というコンテンツが未だに勝っていると思いますか。高尚で立派なイメージにふん反り返って、「文章」がコンテンツとして優秀だと思い込んではいませんか。「文章」はコンテンツの中でも違う土俵にあるものだと思ってはいませんか。

 読解力が低下したのは、文章よりもおもしろいコンテンツが身の周りにたくさんあるから。単純にそれだけなのではないでしょうか。「読解力」が低下した一方で「ゲーム力」は上がっているのかもしれません。

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3.読書は手軽じゃない

 そもそも、この話を進めるためには「読解力」に価値があるということを前提としなければなりません。ただ、そこから始めていると長くなってしまうので、今回は「読解力は高いほどいい」ものとして話を進めていきたいと思います。

 先ほど述べたように、今の時代、おもしろいコンテンツがあまりにも多すぎます。それらのコンテンツに勝つことができなければ、「読書」に割り当てられる時間が残るはずがありません。

 今人気のあるコンテンツのほとんどに共通するのが「手軽さ」です。YouTubeの動画を観るのなんて、サムネイルをタップすればおしまいです。しかも無料です。そして、おもしろくなければ簡単に止めることができます。そう考えると「文章」というコンテンツは決して手軽だとは言えません。

 何せ時間がかかります。読書に慣れていない人からすると、1日に1冊読むのも、かなり苦労するでしょう。しかも、本は有料です。「お金を払って買ったのにおもしろくない」という可能性も十分にありえます。「最後まで読んだけどおもしろくなかった」なんて最悪のパターンです。その間にお金も時間も失っているわけですからね。もちろんおもしろくなければ途中で止めればいいのですが、それでもお金が返ってくることはありません。メルカリに出品するにしても一手間かかってしまいます。

 そんな両者を比べてみて、改めて考えていただきたいと思います。これだけ様々なコンテンツが溢れる時代に、「文章」というコンテンツに時間を割く理由があるのでしょうか。習慣として読書を知らない子どもたちに「読書」の価値を説明することができますか。

 

4.頑張らなければならないのは書き手

 今回の「読解力低下」という結果を受けて、本当に頑張らなければならないのは、学習者ではなく書き手です。今回の結果は、ある意味「文章」というコンテンツの敗北が知らされたようなものです。子どもたちの興味と時間は、とうの昔に他のコンテンツに奪われてしまっているのです。

 「本を読みなさい!」だなんて強引に取り戻そうとしても無駄です。結局、人の身体を動かすのは、心からの興味・関心です。この興味・関心を取り戻さなければ、きっとこのまま読解力は低下し続けることでしょう。

 だからこそ、本当に頑張らなければならないのは、文章の書き手なのです。思わず読みたくなるようなおもしろい文章を生み出さなければなりません。決して、今の書き手たちがつまらないと言っているわけではありません。素晴らしい文章は世の中にたくさんあります。だからこそ、頑張らなければならない人が、もうひとりいます。

 それは教師です。おもしろい文章と子どもたちを出会わせることができる数少ない大人です。書き手がおもしろい文章を生み出す。そして、教師がそれを子どもたちに伝える。どちらかだけが頑張ってもあまり意味がありません。本当に「読解力」を向上させたいのであれば、他のコンテンツにも勝るおもしろい文章を、子どもたちに届けることが重要になるのです。

 

 

 洋服の世界でも同じようなことが言えます。結局どれだけすてきな服をデザイナーが作り出そうとも、それがお客さんに届かなければなんの意味もありません。俗に言う「マーケティング」と呼ばれるものです。

 今の書き手の中に、読者に届くまでの動線をデザインすることができている人はほとんどいないと思います。よく弊ブログにも書いていますが、文章は読んでくれる人がいて始めて成立します。書いたらおしまい。放っておいたら勝手に誰かが読みにきてくれるというわけにはいかないのです。

 どうすれば読者のもとにこの文章が届くのか。どうすれば多くの人に読んでもらうことができるのか。そんな戦略的な視点を書き手が身に付けたら「文章」というコンテンツはよりおもしろくなるのかもしれません。