ツイートの3行目

小学校の先生です。ツイートは2行まで。3行目からをここに書いていきます。

【日】「あの子休み時間ずっとひとりで座ってたよ。大丈夫かな?」じゃねえんだよ

 

 おはようございます。毎朝投稿をはじめて300日が経過したわけですが、実はここまでずっと避けてきたことばがあります。それは「一人称単数」を表す代名詞です。

 「わたしたち」とか「我々」という「一人称複数」を表す代名詞は、さがせばいくらかみつかるはずです。しかし「わたし」や「ぼく」という代名詞はなかなかみつからないでしょう。

 もちろんそこには理由があります。ひとつ目の理由は「すべての主語は自分自身なのでわざわざ言う必要がない」ということ。ふたつ目の理由は「性別や年齢が特定され、意見の幅が狭まってしまう可能性がある」ということです。

 いずれにせよ考えすぎなのだと思います。何ならきっと「一人称単数」の代名詞をつかったほうが効果的な場面もあったでしょう。それでも、どうもつかいこなせる気がせず、これまでずっと避けてきました。どうしても必要なときは「筆者」といえ一人称をつかうようにしてきました。

 今日は、あえてその自分ルールを破り「ぼく」という代名詞をつかって書いてみたいと思います。「わたし」ほど堅苦しくもなく、「おれ」ほど個性をもたない「ぼく」という代名詞。うまくいくかはわかりませんが、本日もぜひ最後までお楽しみください。どうも、インクです。

 

「あの子休み時間ずっとひとりで座ってたよ。大丈夫かな?」じゃねえんだよ

 季節がくると、手のひらが乾燥して皮がめくれるようになる。母はハンドクリームを塗りなさいと言うが、あのベタベタした液体がどうも好きになれない。

 何ならぼくは、この皮がもとに戻ってほしくないと思っている。 なぜなら、めくれかかった皮を自分で最後までめくるという暇つぶしを失ってしまうことになるからだ。何を言っているんだと思っているのかもしれないが、これが案外いい暇つぶしになる。

 ねらうのは、皮が手のひらから離れて白くなっている部分だ。ちょうどその白の輪郭に合わせて、皮を綺麗にめくっていく。白いところというのは、もともと手から離れているので、めくったところで何のいたみも感じない。もちろん、深追いは禁物だ。

 白いところをめくろうとするがあまり、手のひらにくっついている皮まで引っ張ってしまうと、思っている以上の痛みが走る。さかむけをイメージするとわかりやすいかもしれない。

 だからぼくは、あくまでも慎重に、白い部分だけを指からきれいにめくっていく。小指から順番に。薬指、中指、人差し指、親指。すべての指が終わっても大丈夫。手のひらはもうひとつある。

 ときどきしくじって、白い部分をほんのすこしだけ取りのこしてしまうことがある。こうなったら厄介だ。小さな白い部分を引っ張ってしまうと、絶対に肌色の部分にも影響が出る。だから、何とか気づかないふりをして、あとから爪きりで切るようにしている。

 そんなときに、先生がこんなことを言ってきた。

 「解の公式を言ってみて」

 きっと手元でゴソゴソしているぼくを見て、これみよがしに指名してきたのだろう。しかし、結果として、ぼくはすらすらと解の公式を言ってのけた。べつに皮をめくっているからといって、話を聞いていないというわけではないのだ。

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 左手の薬指の皮をめくりおわったころに授業が終わった。みんなが思い思いに動きはじめる。まあ、思い思いとは言うものの、全員が毎回おなじような動きをしている。あの人はあの人のところへ行き、あの人はあの人のところへ行く。

 そしてあっという間に、いくつかのグループができあがる。なんの話をしているのかはよく知らない。でも、全員が全員「自分はこのグループに所属していますから」という顔をしている。まるで、ひとりで座っているぼくを「かわいそう」とでも言うみたいに。

 クラスでは、多いが正義だ。ぼくはここには居られない。教室を出て、できるだけゆっくり歩みを進める。はたから見て違和感のない程度に、最低速で歩いていく。ひとつめの目的地は、別の校舎にあるトイレだ。この後者には学年の教室がないので、基本的にはひっそりとしている。

 1年をかけてさがし出した、人にみつからないルートを通って、そんなひとつめの目的地にむかう。べつにトイレに行きたいわけではない。

 そこで数分間の時間をつぶす。学校の中で唯一ひとりになれる空間だ。鍵をかけられるので、だれかが入ってくる心配もない。「このまま1日が終わってしまえばいいのに」と願うものの、2時間目のはじまりはなんの配慮もなくせまってくる。

 トイレを出たら、また違和感のない程度に、ゆっくりと歩いて教室に戻る。2時間目までのこり3分。このままでは、教室で2分も待たなければならないことになる。そんなときは、いちど教室に戻り、今度は教室があるフロアのトイレへ向かう。

 なんども言うが、べつにトイレに行きたいわけではない。トイレ自体は2回目になるわけだが、1回目では用を足していない。2回目のみんながつかっている方のトイレで用をたす。

 これでのこりは数十秒だ。いそいで教室に戻れば、無事に2時間目がはじまる。授業さえはじまってしまえば、こっちのものだ。座っていれば勝手に時間が進んでいく。今日の休み時間は、まだあと5回ものこっている。はやく1日が終わればいいのに。

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