ツイートの3行目

小学校の先生です。ツイートは2行まで。3行目からをここに書いていきます。

【月】ものを知らずに語るのは愚かだけど、知るまで語れないのなら誰も何も語れなくなる

 

 おはようございます。この季節のすこしだけ寒い朝とすこだけ寒い夕方がとても好きです。空気が澄んでいてさらりとしています。むかしから空気の汚れには敏感で、せまい部屋に大人数が集まるようなことがあれば、すぐにでも外の空気が吸いたくなりました。

 小さなカラオケルームなんてもう最悪ですね。あのせまさに、あの人数に、あの音量は、とてもじゃないけど耐えられません。なによりも、空気がわるいと頭が痛くなってしまいます。せっかくみんなで集まって楽しくしているのに、ひとりだけ頭痛に苦しむだなんてさすがにやってられません。空気ってとても大切です。どうも、インクです。

 

ものを知らずに語るのは愚かだけど、知るまで語れないのなら誰も何も語れなくなる

  何も知らないくせにえらそうに語っている人って愚かですよね。ただ、そんな人を見て「愚かだなあ」と思っている自分が何かを知っているのかというと決してそういうわけでもありません。自分もろくに知らないくせに、知らない人のことを愚かだと思うその行為こそ、最高に愚かだなと思うわけです。

  J . D . サリンジャーの代表作である『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデン・コールフィールドは、作中でこんなことを述べています。

I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes.

  どうですか。とんでもないことを言っているでしょ。驚いて目玉が飛び出そうになります。このセリフがあるからこそこの物語は進み、このセリフがあるからこそ今日のこの記事も進んでいくのです。なんてのは冗談です。ちゃんと日本語訳も書いておきますね。

僕は耳と目を閉じ口を噤んだ人間になろうと考えたんだ。

 何てことを言っているんだと思いますよね。ひねくれているけど素直でまっすぐなホールデンの性格をよく表したセリフだと思います。実はこれ、かなり有名なセリフです。もちろん『ライ麦畑でつかまえて』が名作だということも大きいのですが、日本のアニメである『攻殻機動隊』にこのセリフが登場するのです。

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 笑い男。『攻殻機動隊』を観たことがない人も、このマークはなんとなく知っているのではないでしょうか。まわりを取り囲んでいる英文が、まさに先ほどご紹介したセリフになっています。ちなみに、同作品の主人公である「少佐」こと草薙素子もこんなセリフを述べています。 

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 自分を変えるのか。耳と目を閉じ口を噤むのか。果たしてどちらが正解だと思いますか。もちろん少佐のこのセリフを聞く限りは「自分を変える」が正しい道であるかのように見えますが、一概にそうとは言い切れないところもあるのがこの問いのおもしろいところです。

 中国春秋戦国時代における諸子百家、道家のひとりである老子は『老子』の第56章でこんなことを述べています。

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  要するに「ものごとをよく知っている賢者こそ口を慎み、なにも知らない愚者こそがべらべらとしゃべりやがる」という意味です。先ほどご紹介したホールデンや少佐のセリフとは、若干ニュアンスがズレてはいるのですが、行為だけを見れば共通するところがあるはずです。

 ここまできて、ようやく今日の記事のタイトルにたどりつきました。ものを知らずに語るのは愚かだけど、知るまで語れないのなら誰も何も語れなくなる。すごく難しいところですよね。語るのか語らないのかって。

 この記事のはじめにも書きましたし、老子も上のように言っています。やっぱりロクにものを知らないのに、べらべらとしゃべっている人は愚かです。しかし、誰もが発信できるようになったこの時代に、ただ黙っているというわけにもいきません。

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 そうなったときに、やはり大前提となるのがソクラテスおじさんの言う「無知の知」なのではないでしょうか。自分はロクにものを知らない。それをよく自覚した上でものを言う。そうでなければ、それこそ今日の記事のタイトルのように、誰も何も語れない世の中になってしまいます。

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 夏目漱石の『こころ』に登場するKもこのように言っています。向上心のないものはばかだ。はじめにご紹介したホールデンのセリフは、一種のあきらめから生じるものです。やはり「知らないから黙っておけばいい」というわけにもいきません。知らないことを自覚した上で語らなければならない場面があるのです。

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 このふきだしは少しよくないですね。正確に言えば、村上春樹の作品に登場する人物のセリフです。『スプートニクの恋人』という作品に登場します。他人のことがなんとでも簡単に言えなくなったら、世界はすごく陰鬱で危険な場所になる。

 やはり何度も言いますが、知らなくても語らなければなりません。語らなければ、自分の世界を自分でつくっていくことはできないでしょう。しかし、やっぱり知らないくせに語るのは愚かです。だからこそ、無知をよくよく自覚しておかなければなりません。知っているから語るのではありません。知らないからこそ語らなければならないのではないでしょうか。

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【お知らせ①】

 明日からツイッター上で新しい企画がスタートします。なかなかに実験的な企画です。18時のツイートをお楽しみに。

 

【お知らせ②】

 来週土曜日22時スタートです。今回は「話す人」と「聞く人」をはっきりと分けようと思いますので、参加を希望される方はどちらかを明確にした上でツイッターのDMまでお知らせください。この会、たぶんおもしろいことになるよ。せっかくなのでぜひ一緒にお話しましょう。

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