ツイートの3行目

小学校の先生です。ツイートは2行まで。3行目からをここに書いていきます。

【木】「いつかいいことがある」は今を耐える理由にならない

 

 おはようございます。昨日クラスの子どもが「お箸を忘れました」と言ってきたので、「がんばって手で食べないとね」と答えました。すると、黙って回れ右をして戸棚からわりばしをとっていました。またある日には別の子が「プリントが1枚足りなかったのでもらってもいいですか」と言ってきたので、「だめです。絶対にあげません」と答えました。すると、黙って右向け右をして、余っているプリントを1枚とって自分の席へと戻っていきました。春に比べると随分と成長したものです。自分の頭で考えるというのはそういうことです。どうも、インクです。

 

「いつかいいことがある」は今を耐える理由にならない

 思春期の真っ只中に、こんなことを思った記憶があります。今の悩みを「あのころは若かったな」と言って笑う大人にはならないでおこう。よいかわるいかは別にして、そのころに描いていたとおりの大人にはなったと思います。あのころの自分の悩みを軽んじるようなつもりは一切ありません。まあ、成長していないだけなのかもしれませんけどね。

 あのころは若かった。わりとよく耳にすることばだと思います。過去の自分を後悔して、今の自分は違うんだということを主張する。言わば、自分の過去と現在を分断したいという気もちから生まれることばです。

 しかし、当然のことながら過去と現在は地続きです。分断して捉えられるものではありません。過去の自分があったおかあげで今の自分が存在しますし、反対に過去のじぶんがあったせいで今の自分が存在します。

 それにも関わらず、人はどうも過去のことを軽んじて考えてしまう傾向にあります。なぜなら、先ほども述べたように、もう過ぎ去った「今の自分とは分断されたもの」と考えてしまうからです。

 

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 だからこそ、相談に対する回答には、その人の度量が大きく表れます。他者の相談にのるということは、言わば自分の過去をみつめなおすということでもありますからね。自分の経験をさかのぼった過去からしか、ことばは生まれてこないのです。だからこそ、過去を「分断してしまった人」と「地続きで考えている人」とでは、でてくることばが違ってきます。 

 

いつかいいことがあるから大丈夫

 

 過去を分断してしまった人たちは、簡単にこんなことを言ってのけます。今の自分がある程度たのしくすごすことができているからこそ、過去を生きる相談者にこんなことを言ってしまうのです。しかし、相談者からすれば「いつかっていつだよ」「いいことってなんだよ」という話です。

 「いつかいいことがある」は今を耐え抜く理由にはなりません。もし、そんなことばに救われるのなら、そもそもが大した悩みではなかったということでしょう。本当にその悩みと向き合っているのならば、むしろ怒りすらおぼえるのではないでしょうか。言ってしまえば「いつかいいことがあるから(今の悩みなんて全然大したことじゃないよ。だから)大丈夫」と言われているのと同じですからね。確実に軽視されています。

 

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 この記事でも述べたとおり、たしかに大抵の「大きな問題」は大して大きくはありません。しかし、その理由は「見ている世界が小さいから」であって「いつかいいことがあるから」ではありません。本気で悩んでいる人間が、いまさらそんな不確定な軽いことばで動くはずがないのです。

 最近、社会の授業をしていて、よくこんなことを思います。子どもたちはいとも簡単に、過去を生きた人々に対して「こうしたらよかったのに」ということを言います。だから、子どもたちにひと通り考えさせたあとにこんな問いかけをするようにしています。

 

いま君たちが思いついたことを当時の人たちは思いついていなかったと思う?

 

 たった1時間の授業で子どもたちが思いつくことを、当事者である過去の人々が思いついていなかったはずがありません。あんなやり方はどうだろう。こんなやり方はどうだろう。うんうんと頭を悩ませた末に、教科書に載っているやり方を当時の人々は選んだのです。この感覚が抜け落ちているような気がしてなりません。だからこそ、最後には必ず「いろいろな選択肢があった上で当時の人々がこのやり方を選んだのはなぜだろう」ということを考えさせるようにしています。

 なんだか話が変わっているように聞こえるかもしれませんが、先ほどの話と同じです。悩んでいる人間に対して「いつかいいことがあるから」ということばをかけるのは、過去を生きた人々に「こうしたらよかったのに」と言っている子どもたちと同じです。悩んでいる人間を、過去を生きた人間を、無意識にバカにしてしまっているのです。

 

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 本気で悩んでいる人間は、あなたが今この瞬間に思いつくようなことなんて、とっくの昔に考え尽くしています。そんなことも考えずに軽いことばをかけようものなら「ああ、この人もまた同じか」と思われておしまいです。無意識に軽視して、うっかり軽いことばをかけてしまうくらいなら、はじめから何も言わない方がいいのではないかとさえ思います。

 

 もう答え出ているんでしょう。どんな異論もあなたには届かない。もう誰の言うことでも予想つくぐらい長い間悩んだんだもんね。