ツイートの3行目

小学校の先生です。ツイートは2行まで。3行目からをここに書いていきます。

【水】トラブル対応では昔のことを掘り返させないように先手を打つ

 

 おはようございます。随分と気温が下がってきましたね。今週の金曜日には、さらにガクっと下がるそうです。くれぐれも体調には十分お気をつけください。そして、この時期になると必ず現れるモンスター「タイチョウカンリモ・シャカイジンノ・シゴトババア」には注意が必要です。このモンスターに攻撃は効きません。初見のプレイヤーは一生懸命戦ってしまうことが多いのですが、「にげる」を選ばなければ持続ダメージを与えられてしまいます。逃げるのは意外と簡単ですので、くれぐれも戦わないようにしてくださいね。どうも、インクです。

 

トラブル対応では昔のことを掘り返させないように先手を打つ

  学校の先生の仕事のひとつに、「子ども間のトラブルを解決させる」というものがあります。一般的には「生徒指導」と呼ばれる仕事です。初任の先生が頭を悩ませる要因のひとつだと言えるでしょう。

 「生徒指導」と聞くと、どうしても「叱る」「怒る」というイメージがあると思いますが、必ずしもそうとは限りません。最終目的は「自分たちで判断できるようになる」ことですので、なんでもかんでも善悪を決めて、悪をこらしめればいいというわけではないのです。

 そこを先生自身が勘違いして勧善懲悪を行なってしまうと、クラスの中で「先生に言うからな!」というセリフが飛び交うようになります。このセリフの裏には「自分が嫌な思いをしたら代わりに先生に復讐してもらおう」という感情が込められています。たしかに、「困ったときに先生に相談したら何とかしてくれる」という信頼は大切なのかもしれませんが、これだと先生はただの「復讐代行」でしかありません。嫌なことがあったときに、自分でどうにかすることができない子どもが育ってしまいます。だからこそ、うちのクラスでは次のような順序で子どもの話を聞くようにしています。

子「先生、Aさんに嫌なこと言われた」

先「そうか、どんなことを言われたの?」

子「身長を教えたら『チビ』って言われた」

先「それは嫌だね。言われてどうしたの?」

 ここまではただの事実確認です。もしここで、「言われるだけ言われて何もしていない」と答えたら、「嫌だったということを伝えないと相手はまた言ってくるよ」と話し、本人に伝えに行かせます。ただ、大抵の場合はこのように続きます。

子「嫌だからやめてと言ったのにやめてくれなかった」

 もしくは、「嫌だと言ったのに全然聞いてくれなかった」というパターンもあります。お互いが口達者だと、言われた側が余計なことを言い返すというパターンも考えられるでしょう。そんなときは必ずこう尋ねるようにしています。

「それで、あなたはAさんとどうなりたいの?」

  ここでもし「どうしたいの?」と聞いてしまうと、ベクトルが相手の方を向いてしまい、「謝ってほしい」だの「これからはやめてほしい」だのといった意見が出てきてしまいます。相手に変化を要求するばかりでは、何も前には進みません。ポイントは「自分がAさんとどうなりたいか」です。実を言うとこの質問は、ほぼ二択です。選択肢は「仲良くしたい」「距離をおきたい」かです。子どもは素直ですので、よほどのことではない限り「仲良くしたい」を選びます。

先「仲良くしたいと思っているけど、嫌なことを言われたままだと仲良くできないから、今のうちに解決しておきたいということだね?」

子「うん」

先「分かった。じゃあ、Aさんを呼んでくるから、その気持ちをしっかり自分のことばで伝えてね」

 と、このような流れで話を進めていきます。前提を「復讐してやる」から「仲良くしたい」に転換した上で、両者を付き合わせるのです。この転換がうまくいけば、あとは見守るだけです。 「仲良くしたい」というプラスの感情が前提となっているので、先ほどまでのトラブルは一体何だったんだというくらい、自分たちで上手に話を進めていきます。「復讐してやる」という負の感情から始まってしまうから、ものごとは必要以上にこんがらがってしまうのです。

 もちろん「距離をおきたい」を選ぶのなら、それでもかまいません。実際のところ、明日からも毎日顔を合わせるので、本当に距離をおくのはとても難しいのですが、結局は話し合いのときの「目的」がはっきりしていればそれでよいのです。先ほどから何度も述べている「復讐」のよくないところは、「目的」がブレることにあるります。本来は解決するために話し合っているはずなのに、内面は復讐心で煮えたぎっているという状態です。それでは一向に話は進みません。繰り返しにはなりますが、とにかく前提が「復讐してやる」から別のところに移れば、極端な話なんだっていいのです。

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 もうひとつの厄介なパターンとしては、ひとつのトラブルがあったときに「昔のトラブルを掘り返してくる」パターンです。筆者も1年目のときには、このパターンに大いに悩まされました。「今回相手を叩いたのは、先週『バカ』と言われてムカついていたからだ」と言うわけです。そして当然、過去のことになるので「そんなことを言った覚えはない」「いや、言った」「言ってない」「言った」「言ってない」…ということが起こります。まあ、めんどくさいです。だから、2年目のクラスではこれを真っ先に潰しました。

 

  1. 先生はあなたの代わりに復讐をしてくれるマシーンではない
  2. 「まあいいか」で済ませられるのならそれでOK
  3. ただし一度「まあいいか」で済ませたものをあとから掘り返すのはナシ

 

 この3点を4月の時点で子どもたちに伝えました。「まあ、いいか」で済ませたものを後出しするのは絶対にナシ。そのときに解決することをサボったあなたが悪い。そうならないためにも、気になることがあるのなら、そのときに解決しなさい。手助けはいくらでもするよ。

 はじめはポカーンとしていましたが、実際に先生がこの通りに対応していくと、子どもたちはすぐに慣れていきました。11月になった今では、「先生に言うからな!」というセリフはまったく聞こえてきません。また、相談にくる子も「やめてって言っているのにやめてくれないから、先生にも一緒に話を聞いてほしい」と随分具体的な話をしてくれるようになりました。もはや、先生の役割は「証人」として側で見守るだけです。

 筆者自身は別に「生徒指導」を専門にしているわけではないので、上記のやり方が正しいのかどうかもも分かりません。しかし、そのような中でも、間違いないと断言できることがひとつだけあります。それは、「先手必勝」です。生徒指導においては、間違いなく「先手必勝」だと思います。まったく違う人間が何十人も集まれば、トラブルが起こるのは当然です。そんなトラブルを想定して、いかに先に手を打つことができるのか。ここにかかっていると思います。もちろん、予防も大切ですが、どちらかといえば対策です。

 「復讐してほしくて言いにくるんだろうな」「昔のことを掘り返すとややこしくなりそうだな」「自分を守るために不都合なことは隠しそうだな」などなど、起こり得るパターンをどれだけ想像できるかが鍵です。ある程度は経験とともに積み重なっていくものなのかもしれませんが、「先手必勝」なんだと思っているかどうかで、できることは大きく変わってくるはずです。

 

 

 上のような方法をとっているので、叱ったり怒ったりすることがほとんどありません。と、言うと何だかひとつの美学のように聞こえるのかもしれませんが、最近はやはり叱ることも大切だよなと思うようになってきました。

 叱ることの目的は「後悔させる」ことです。小学生ともなれば、ことばだけでも「やってしまったこと」を理解することはできます。「もうしません」と口では言うことができます。ただ、それでは足りない場合もあるのです。あまり「子どものため」ということばはつかいたくないのですが、やはり何かがあってからでは遅いのです。友だちの信頼を失ってからでは遅いのです。「叱る」ことを通して、思い切り後悔させてやる。これも大人の役割なのかもしれません。